世間では、投信信託の手数料について、3%以下とか1%以下、0.5%以下など、様々な説が流れていますね。
しかし、多くの場合、その目安の根拠は示されないのが現状です。
つまり、こう言った目安を示す自称プロ(と敢えて言わせて頂きます)は、投資信託で利益を得るための分析方法の本質を何もわかっていないようにしか、少なくとも僕には見えません。
例えば、株式系と債券系の投資信託では期待リターンが全く違います。
まったく違う期待リターンを持つ投信の適正手数料が同じわけが無いのです。
このあたりの具体的な計算方法を、実用的かつ簡単、丁寧に解説して行きましょう。
投資信託の期待リターンはどうやって決めるのか?
超長期平均年間収益率のおおよの統計値が出ているので、それを利用すればよいでしょう。
資産運用の古典的バイブルと言って良いチャールズ・エリス著「敗者のゲーム 原著第6版」の181頁にこのような記述があります。
次に、多くの投資家が、この一連の作業の中で最も難しいと考えている、投資の長期平均期待収益率の予測方法について、簡単な解決法を説明しよう。
まず、各資産のインフレ調整後の超長期平均年間収益率を、ほぼ次の通りと見る。株 式 4.5%
債 券 1.5%
短期財務省証券 1.25%
このデータをそのまま使いましょう。
また、金(きん)については、ジェレミー・シーゲル著「株式投資 第4版」の10頁、11頁を見ればわかるように、インフレ調整後の200年間の平均収益率はほぼ0%と言っても良い。
リートに関しては、データが無いので株式と同様の収益率と見なします。
これまで内容をまとめると、期待収益率として以下の数値を活用出来ることがわかります。
▼インフレ調整後の超長期平均年間収益率
- 株式(リート)の期待リターン 4.5%
- 債券の期待リターン 1.5%
- 金の期待リターン 0.0%
これらのデータを使うことで、投資家側から見た投資信託の適正手数料を計算することができるのです。
適正手数料を計算/活用するための基本方針
適正手数料を計算/活用するための基本方針は以下の4つです。
- 飽くまでも長期投資向けの指針である
- 誤差が含まれているため飽くまでも目安である
- 手数料は期待利益の10分の1に収める
-
信託財産留保額(解約手数料)は、常に1%以下とする
使用する統計情報は超長期の年率換算平均なので、短期的な実績とはかけ離れる場合があります。
したがって、数ヶ月や数日単位の動きとはまったく連動しないことが多々あります。
そのため、短期での売買には適用できず、また長期投資においても年によって誤差は相当でます。
これは、数値が正確か否かではなく、市場の動きには必ず波があるからです。
年によっては、実際の収益が期待収益率の半分であったり、倍であったりすることは、普通に起こります。
当然、収益率がマイナスの年もあります。(リーマンショックを思い出して下さい)
従って、手数料が期待収益率の半分程度では適正とは言い難い。
市場の波を想定した上で、年単位の利益を出来るだけ出しつつ、長期的な利益を確実に取るには、手数料は期待リターンの10分の1程度が適切と考えます。
この10分の1は経験上の値ですが、否定するのは難しいのではないでしょうか?
また、信託財産留保額(解約手数料)を常に1%以下とするのは、運用管理費用(信託報酬)と同様に元本と利益すべてに対する費用であり、高率になれば最終利益そのものを圧縮する性質を持つためです。
また、ここで使用している計算式は信託財産留保額(解約手数料)を常に1%以下とすることを前提として作りました。
詳しくは、この記事の最後の「使用した数式の数理的根拠の説明」をご覧ください。
ただし、今時の投資信託事情を考えた場合、購入/解約手数料ゼロが一般的でしょう。
購入/解約手数料を考慮すべき場面は、ETF(上場投資信託)や個別株などを自分自身で直接売買する場合などに限られると考えています。
特に、信託財産留保額(解約手数料)を取る投資信託には、好感が持てるものは個人的にありません。
それでは、具体的な適正手数料の計算をしてみましょう。
株式系インデックス投信の適正手数料
株式系インデックス投信の期待リターンは4.5%で計算します。
この期待リターンの10分の1が適正な手数料率となります。
適正手数料の計算結果
- 運用管理費用(信託報酬) 0.45%程度かそれ以下
- 購入時手数料+信託財産留保額(解約手数料) 0.45%程度かそれ以下
世の中で言われている手数料をすべて合わせて1%とか、0.5%とかの値は、このあたりを指しているように思われます。
債券系インデックス投信の適正手数料
債券系インデックス投信の期待収益率は1.5%で計算します。
この期待リターンの10分の1が適正な手数料率となります。
適正手数料の計算結果
- 運用管理費用(信託報酬) 0.15%程度かそれ以下
- 購入時手数料+信託財産留保額(解約手数料) 0.15%程度かそれ以下
債券系に関しては、この基準だとアウトな投信が相当あるので要注意ですね。
レバレッジ型バランスファンドの適正手数料(グローバル3倍3分法ファンド編)
株式+リートの期待リターン4.5%×1(100%)=4.5%
債券の期待リターン1.5%×2(200%)=3.0%
これらを合成すると7.5%となり、これが今回使用する期待リターンとなります。
適正手数料の計算結果
- 運用管理費用(信託報酬) 0.75%程度かそれ以下
- 購入時手数料+信託財産留保額(解約手数料) 0.75%程度かそれ以下
グローバル3倍3分法ファンドの実際の手数料(10%の消費税込)
- 購入時手数料 3.3%以内で販売会社が設定(大手ネット証券では無料)
- 運用管理費用(信託報酬) 0.484%
- 信託財産留保額(解約手数料) なし
グローバル3倍3分法ファンドはどちらもクリアしていますね。
そして、当然ながら無料で購入すべきです。
レバレッジ型バランスファンドの適正手数料(楽天・米国レバレッジバランス・ファンド(USA360)編)
株式の期待リターン4.5%×0.9(90%)=4.05%
債券の期待リターン1.5%×2.7(270%)=4.05%
これらを合成すると8.1%となり、これが今回使用する期待収益率となります。
適正手数料の計算結果
- 運用管理費用(信託報酬) 0.81%程度かそれ以下
- 購入時手数料+信託財産留保額(解約手数料) 0.81%程度かそれ以下
楽天・米国レバレッジバランス・ファンド(USA360)の実際の手数料(10%の消費税込)
- 購入時手数料 3.3%以内で販売会社が設定(大手ネット証券では無料)
- 運用管理費用(信託報酬) 0.4945%
- 信託財産留保額(解約手数料) なし
楽天・米国レバレッジバランス・ファンド(USA360)はどちらもクリアしていますね。
そして、当然ながら無料で購入すべきです。
使用した数式の数理的根拠の説明(面倒な方は飛ばしてかまいません)
この記事で紹介した計算式は実用的な近似式となっております。
期待リターンの誤差や安全側に倒すなどの配慮をした結果、ここで紹介した計算式で充分だと判断しました。
しかしながら、ここで紹介した近似式に辿り着くまでの数理的根拠(と言うほどの大層なものではありませんが)を確認したい方のために、途中経過を含めて数式で説明しようと思います。
運用管理費用(信託報酬)の適正値算出方法
年率期待リターンをReとし、年率運用管理費用(信託報酬)の適正値をCaとする。
この時、年率運用管理費用(信託報酬)の年率期待リターンに対する比率は10分の1以下が適正であると定義すると以下の不等式が成り立つ。
$$\frac{C_a}{R_e}\leq\frac{1}{10}$$
この式から、Reを既知であると仮定すると、Caは以下の通り定義される。
$$C_a\leq\frac{R_e}{10}$$
従って、年率運用管理費用(信託報酬)の適正値の上限は、目安となる年率期待リターンがわかれば、その値の10分の1を算出することで得られる。
まあ、これについては、定義そのままですね。
購入時手数料及び信託財産留保額(解約手数料)の適正値算出方法
年率期待リターンをReとし、購入時手数料をCb、信託財産留保額(解約時手数料)をCsとする。
また、購入から解約までのトータル期待リターンをRtとする。
この時、購入時手数料Cbと信託財産留保額(解約時手数料)Csの合計値のトータル期待リターンに対する比率は10分の1以下が適正であると定義すると以下の不等式が成り立つ。
$$\frac{C_b+C_s(1+R_t)}{R_t}\leq\frac{1}{10}・・・式1$$
また、Rtは以下の通り定義する。
$$R_t=(1+R_e)^Y-1・・・式2$$
この時、Yは投資信託にあずけられた年数であり、Y≧1とする。
また、期待リターンがマイナスのものに投資する意図は無いためRe>0である。
これらの条件により以下の不等式が成り立つ。
$$R_t=(1+R_e)^Y-1>0・・・式3$$
$$R_t\geq R_e・・・式4$$
また、式1の両辺にRt(>0)を乗ずると以下の不等式が成り立つ。
$$C_b+C_s+C_sR_t\leq\frac{R_t}{10}・・・式5$$
Rtを右辺にまとめると、以下の通り変形できる。
$$C_b+C_s\leq\frac{R_t}{10}(1-10C_s)・・・式6$$
さらに、右辺の変数をRtのみにすると以下の式に変形される。
$$\frac{C_b+C_s}{1-10C_s}\leq\frac{R_t}{10}・・・式7$$
また、式5を変形することによりCsを定義すると以下の不等式が成り立つ。
$$C_s\leq\frac{1}{10}\frac{R_t-10C_b}{R_t+1}<\frac{1}{10}・・・式8$$
従って、購入時手数料Cbと信託財産留保額(解約時手数料)Csの合計値のトータル期待リターンに対する比率は10分の1以下が適正であると定義した場合、信託財産留保額(解約時手数料)の適正値Csは必ず10分の1即ち10%以下でなければ成り立たないことが導かれる。
従って、式7において、左辺が負の値になることはない。
また、式7を拡張することで以下の不等号が成り立つ。
$$C_b+C_s\leq\frac{C_b+C_s}{1-10C_s}\leq\frac{R_t}{10}・・・式7拡張1$$
この時、Csが充分に小さければ、以下の関係が成り立つ。
$$C_b+C_s≒\frac{C_b+C_s}{1-10C_s}\leq\frac{R_t}{10}・・・式7拡張2$$
これにより、信託財産留保額(解約時手数料)Csの値が0.01、即ち1%以下である事と、最大約1割の誤差を許容することで以下の近似式が成立する。
$$C_b+C_s\leq\frac{R_t}{10}・・・近似式1$$
また、RtはY=1において最小値Reを取るため、Rtに最小の値であるReを代入することで、より安全側に倒した近似式を得ることができる。
以下がその近似式である。
$$C_b+C_s\leq\frac{R_e}{10}・・・近似式2$$
従って、購入時手数料Cbと信託財産留保額(解約時手数料)Csの合計値の適正な上限値は、目安となる年率期待リターンがわかれば、その値の10分の1を算出することで得られる。
ただし、信託財産留保額(解約時手数料)Csは1%以下であることを条件とする。
このような、近似計算式が導かれた次第です。
投資は自己責任。
リスク管理を徹底して楽しみましょう。