MMT理論を簡単にわかりやすく【3】金融政策でデフレ脱却できない理由 ~たぬき先生とうさぴょんの楽々経済教室~

「MMT(現代貨幣理論)で重視される財政政策と金融政策の違いが良くわからないぴょん」
うさぴょんの質問にたぬき先生は意外なことを言い始めた。

「世の中には2種類のお金があるんだ。

それがわかれば財政政策と金融政策がまったく別物だと言うことがわかるはずだよ」

たぬき先生の講義がはじまった。

お金には2種類あることがわかればMMT(現代貨幣理論)がもっとわかる

うさぴょん
うさぴょん
MMT(現代貨幣理論)で重視される財政政策と金融政策の違いが良くわからないぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
世の中には2種類のお金があるんだ。
それがわかれば財政政策と金融政策がまったく別物だと言うことがわかるはずだよ。
うさぴょん
うさぴょん
どういうことぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
財政政策と金融政策では働きかけるお金の範囲と効果が違うんだ。
まずは、2種類のお金の説明をしよう。
うさぴょん
うさぴょん
楽しみだぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
1つ目のお金は日銀当座預金だ。
その名の通り、財務省と民間の金融機関が日銀に持っている当座預金。
これは、日銀、財務省、各金融機関の間【だけ】でやり取されるお金なんだ。
うさぴょん
うさぴょん
えっと、マネタリーベースとか言っていたやつのことなのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
良く覚えていたね。
ちょっと違うんだけど、現在はマネタリーベースのだいたい8割が日銀当座預金だから、ほぼ同じと言っても良いね。
残りの2割は流通している現金だ。
ハイパワードマネーとも言うけど、何がハイパワードなんだか良くわからん。
ちなみに、2019年9月のマネタリーベースの総額は約514兆円。
その内、日銀当座預金は約402兆円で、残りの約112兆円が流通している現金だ。
うさぴょん
うさぴょん
あれ、「MMT理論を簡単にわかりやすく【1】政府はお金をいくらでも使えるの?」(https://kantan-beikokukabu.com/mmt-talk-01-588)では、2019年9月のマネタリーベースは約512兆円って言っていたと思うんだぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
驚異の記憶力だな。
そこの数値は季節変動調整済の数字を使っている。
理由は、2012年12月と2019年9月の比較をしているので、季節変動の影響を除外したかったからだ。
今回は、内訳を正確に見たかったから季節変動調整前の生データを使ったという訳だ。
うさぴょん
うさぴょん
ふーん。
たぬき先生
たぬき先生
そして、2つ目のお金は日銀当座預金を除く、すべての金融機関の預金残高だ。
これを確認するための統計はマネーストックと言うんだけど、この統計の中にはマネタリーベースが含まれていて、M1、M2、M3、広義流動性と言う4つの指標がある。
M3が代表的な指標で、この指標にはすべての金融機関と定期預金などを含むすべて預金が含まれるので、今回はこの指標を使おう。
このM3からマネタリーベースを引くと、日銀当座預金や現金を除くすべての金融機関の預金残高がでる。
2019年9月のM3は約1,365兆円(季節調整なし)だ。
つまり、2019年9月時点のすべての金融機関の預金残高は1,365兆円-512兆円=853兆円という訳だ。
うさぴょん
うさぴょん
ちょっと、こんがらがってきたぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
じゃあ、一旦ここで2019年9月現在の数字を整理しよう。

▼重要な数値
マネーストック(M3)は、約1,365兆円で、民間の預金残高にマネタリーベースを足したもの。
マネタリーベースは、約512兆円で、そのほとんどは日銀当座預金で、残りは現金。

▼参考数値(覚えなくて良い)
民間の預金残高は、約853兆円。
日銀当座預金は、約402兆円。
流通している現金は、約112兆円

うさぴょん
うさぴょん
何となく、わかったぴょん。
ところで、2種類のお金って結局何だったけぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
日銀当座預金と民間の預金だ。
この2つの動きの違いを見るための道具がマネタリーベースとマネーストック(M3)の数字だね。
うさぴょん
うさぴょん
そのお金で何がわかるのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
金融政策と財政施策の効果の違いがわかるんだ。
うさぴょん
うさぴょん
さっそく、説明して欲しいぴょん。



金融政策の効果とは?

たぬき先生
たぬき先生
まず、金融政策の効果を説明しよう。
金融政策を実行するのは日銀で、金利誘導と資金の供給/吸収がその内容だ。
うさぴょん
うさぴょん
金利って、日銀が決めるのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
直接的なやり方としては、日銀貸出金利や民間の金融機関が持っている当座預金にかかる金利など、さまざなな金利を変えることで銀行間取引の短期金利を操作するんだ。
ここで、お金の種類を考えて欲しいんだけど、ここで日銀が直接操作できる範囲と言うのは日銀当座預金のやり取りだけなんだ。
一時話題になったマイナス金利と言うのは、この日銀当座預金の中である条件を満たす部分についての話。
だから、民間銀行でマイナス金利の預金口座なんてできなかったでしょ?
うさぴょん
うさぴょん
そうだったのかぴょん!
マイナス金利の預金なんて欲しくないぴょん。
でも、金融機関はなぜマイナス金利になっても口座を持っているのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
金融機関同士の取引と準備預金制度による制限のため、日銀当座預金を持たないわけにはいかないからね。
ただ、ある部分は金利ゼロで、ある部分はプラス金利、別のある部分はマイナス金利みたいな感じだから、詳しいことは別の機会に話そうと思う。
今回のテーマとはまったく関係ない部分だからね。
うさぴょん
うさぴょん
資金の供給/吸収と言うのは何だぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
有名な例を挙げると、日本国債の買取があるね。
金融機関から日本国債を買って、その金融機関の日銀当座預金にその代金を追加する。
すると、日銀当座預金の合計はその分増えるし、マネタリーベースもその分増える。
うさぴょん
うさぴょん
例の、ゼロから預金が増える錬金術だぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
そう。
そして、その逆が資金の吸収。
うさぴょん
うさぴょん
ところで、最初の話題は何だったっけぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
金融政策の効果の範囲だったね。
今話したように、日銀の行う金融政策が直接影響を及ぼすのは日銀当座預金の中だけなんだ。
そして、それはインフレを抑えるためには有効なんだよね。
うさぴょん
うさぴょん
どういうことぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
インフレの時に銀行間取引のレートが上がると、お金の調達コストが上がる。
すると、民間金融機関は自分達が貸す時の金利も上げざるを得ない。
金利が上がると、見通しが甘いのにお金をバンバン使って新たなビジネスを立ち上げるやからも減る。
と、こういう感じで民間のお金の動きにまで影響を与えるのは比較的ラクだったんだよね。
うさぴょん
うさぴょん
資金の供給/吸収も同じようなものなのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
そうだね。
民間金融機関の日銀当座預金を減らしてしまえば、準備預金制度の制限によって貸出し可能な融資が減ってしまう。
すると金融機関の貸し渋りという現象が起き、インフレ停滞要因となる。
うさぴょん
うさぴょん
じゃあ、金融政策ってインフレに対処するには良い事なんだぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
だけど、これにも実は穴があるんだ。
例えば、ある理由があって市場として理不尽な金利上昇を誘導すると、金融機関は調達コストに見合った利益を限られた貸出枠で実現するために市場全体のなかで金利の高い貸出しに力を入れざるを得なくなる。
つまり、不良債権の増加を誘発する場合がある。
うさぴょん
うさぴょん
怖いんだぴょん。

財政政策は民間預金に直接影響を与える

たぬき先生
たぬき先生
だから、インフレに対してもデフレに対してももっとも根本的な対処をするのが一番安全な策なんだよね。
つまり、インフレとデフレの原因である需要と供給のバランスを取ること。
そして、この中で政府が比較的迅速に対処可能なのが政府需要(=政府支出-税収その他)のコントロールなんだ。
うさぴょん
うさぴょん
良い事ずくめのように見えるぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
ただ、使い方によって効果が多少変わってくる。
財政政策でまず理解すべき事は、日銀当座預金を通して民間の預金残高に直接影響を与えるってことだ。
うさぴょん
うさぴょん
民間の預金残高に直接影響を与えるってどういうことぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
政府が1千万円の公共事業をA社に発注した場合を考えてみよう。
B銀行を通して支払うものとする。
この場合、お金の流れはこうなる。
政府は、1千万円の設備投資資産を得て、1千万円の日銀当座預金をB銀行に移動する。
B銀行は日銀当座預金に1千万円増え、A社口座の預金(銀行にとっては借金)が1千万円増える。
つまり、民間の預金残高が1千万円増えることになる。
しかも、1千万円の投資資産が生産されたため、それらの部品や材料がすべて国産であれば1千万円分のGDPが計上されることになる。
うさぴょん
うさぴょん
すっ、すごいぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
少し前までは、政府小切手を使ったアナログな支払だったので、その場合のお金の動きの前後関係は多少違うけれど、お金の流れ自体に違いはない。
税金や罰金を徴収する時は、全く逆の経路で民間の預金残高がその分減る。
うさぴょん
うさぴょん
ふーん。
たぬき先生
たぬき先生
そして、ここからがちょっと重要。
今回は公共事業を例にとったので、その分GDPに計上されたけど、これが何チャラ手当とかベーシックインカムとかになった場合、その金額はGDPに計上されない。
なぜなら、そのタイミングで何も生産されていないから。
うさぴょん
うさぴょん
でも、その手当やベーシックインカムを貰った人が何かに使うでしょ?
たぬき先生
たぬき先生
それを言えば、公共事業で支払ったお金の一部も誰かが何かに使うはずだ。
うさぴょん
うさぴょん
じゃあ、ばら撒きって良くないのかぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
経済効果としては、生産を伴った財政支出には、かなわないってことだ。
以前も言ったと思うけど、お金は貯める事ができるからね。
医療費の負担や福祉サービスの負担など、経済活動に伴ったコストの支援の方がベターだ。
最低限の生活保護なんかは仕方がないが、これも働ける人に対しては、できるだけ政府が仕事を提供して最低限の給料を払う仕組みにした方が良い。
そうすれば、働いた分は生産活動としてGDPに計上できる。
GDPに計上できるってことは、世の中に貢献したってことだから、その方が人間の尊厳も保てると思うんだよね。
うさぴょん
うさぴょん
そこまで考えるのか…なかなか深いもんだぴょん。



日本が証明してしまった信用乗数(貨幣乗数)神話の崩壊

たぬき先生
たぬき先生
でも、主流派経済学では日銀当座預金と民間の預金残高はほぼ比例すると思われていたんだ。
より正確に言うとマネタリーベースとマネーストックは比例するということだ。
うさぴょん
うさぴょん
それは、何故だぴょん?
たぬき先生
たぬき先生
信用創造の仕組みの考え方が間違っていたからだ。
最初に元のお金、例えば1000円があって、その9割の900円を別の人に貸して、その9割の…
とこんな風に預金が増えて行くと考えれば、元のお金(マネタリーベース)とそこから派生したすべての預金額(マネーストック)に特定の比率が成り立つと考えるのは自然だよね。
うさぴょん
うさぴょん
確かに、そうだぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
でも、「MMT理論を簡単にわかりやすく【2】お金の本質と信用創造の真実」(https://kantan-beikokukabu.com/mmt-talk-02-592)で話した通り、その前提は成り立たない。
信用創造(Money Creation)は元金が無くてもできる。
したがって、現金と信用創造によって生成された預金額の合計には本来何の因果関係もないんだ。
うさぴょん
うさぴょん
なるほどぴょん。
たぬき先生
たぬき先生
アベノミクスがはじまった2012年12月から2019年9月にかけてマネタリーベースは約4倍になっている。
アベノミクスが開始された2012年12月は約131兆円で、2019年9月は約512兆円だったね。(双方とも季節調整済の値)
ところが、マネーストック(M3)はほとんど増えていない。
2012年12月のは約1100兆円ちょっとで2019年9月現在で約1,365兆円だ。
2012年12月のマネーストック(M3)は正確なデータが公開されていなかったので精度が低くなってしまったがほぼこの数値で間違いない。
このせいで、アベノミクス開始時は8倍以上あった信用乗数(貨幣乗数)は約2.7倍近くまで落ち込んでしまったんだ。
理論的にも事実としても信用乗数(貨幣乗数)神話は幻想であったことが証明されちゃったんだよね。
うさぴょん
うさぴょん
へー。
たぬき先生
たぬき先生
信用乗数(貨幣乗数)神話が崩壊したことで、金融政策で民間の預金残高を増減させたり、ましてや経済活動を活性化させるには限界があることが明白になってしまったんだ。

投資は自己責任。

リスク管理を徹底して楽しみましょう。