2019年6月4日(火)付で出された金融庁の報告書の話題がいまだにホットですが、その報告書の内容を「読んでないんじゃないの?」と思うような記事やニュースが多いです。
そんなニュースが多すぎて、実際の報告書に辿り着くのが困難なほどです(笑
実際のところ、参考になるデータや考え方が満載です。
そんなわけで、当記事では以下の内容を解説しようと思います。
- 報告書の内容の要点を知る
- 2000万円をどうすれば作れるかを理解する
それでは、さっそく解説をはじめましょう。
金融庁の報告書に実際に書かれているのはこういうこと!
金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
令和元年6月3日
これが、金融庁の報告書の正式名称で、全部で56頁の報告書です。
前半では、高齢化社会における人口動態を年齢別の構成比や家族構成、健康状態などのデータから分析しています。
そして、後半でそれらの問題提起に対する提案を示すという内容です。
それでは、個別に見ていきましょう。
話題になっている月5万円と言うのは、以下の引用部分に出てきます。
しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。
つまり、月5万円は予測などではなく、無職の高齢者世帯の実態。
実際に、無職の高齢者が金融資産を毎月5万円ずつ取り崩しながら生活しているわけです。
しかも、これはことさら贅沢をした結果でない事は以下の引用部分でわかります。
60代以上の支出を詳しく見てみると、現役期と比べて、2~3割程度減少しており、これは時系列で見ても同様である。
また、退職金についても減少傾向にあることがわかります。
また、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1,700万円~2,000万円程度となっており、ピーク時から約3~4割程度減少している。
また、その退職金の金額についても、多くの人は事前に知らされていないことがわかります。
他方で、退職金の給付額を把握した時期について、約3割が「退職金を受け取るまで知らなかった」、約2割が「定年退職半年以内」と回答している。
次に、後半部分について見ていきましょう。
例の2000万円の話は以下の引用部分に出てきます。
前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。
月5万円×12ヶ月=60万円に対して、単純に年数をかけただけですね。
しかも、2,000万円は最大の金額です。
また、退職金を見込める人は、それほど恐れる必要が無い金額であることもわかりますよね。
しかし、これには続きがあります。
(ちょっと長いので、読むのが面倒なら飛ばして結構ですよ)
この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。
要はケースバイケースなので鵜呑みにするなと言うことです。
当たり前ですね。
しかしながら、先が見えないからこそ今から将来の計画を立てる事が重要だということに変わりはなく、この報告書でもそのように主張している訳です。
さらに長期投資に対しても極めてまともな事を主張しているのです。
まず、長期・積立・分散投資の有効性と銘打って以下のようなことが書かれています。
長期・積立・分散投資による効果は、積立が長期であればあるほど、投資先を分散すればするほど、収益がバラつきにくくなる特徴がある。
これは、理論的にも実践的にも長期投資の王道であり正論です。
さらに、こう続きます。
1985年以降の各年に、毎月同額ずつ国内外の株式・債券に積立・分散投資したと仮定し、各年の買い付け後、保有期間が経過した時点での時価をもとにして運用結果を算出すると、保有期間が5年ではマイナスリターンも発生するが、保有期間が20年になるとプラスリターンに収斂し、さらにそのバラつきも小さくなる。
シーゲル教授はその著書「株式投資」で株式への投資は20年を超えるとリスクがゼロになることを過去200年のデータで証明しましたが、それとほぼ同様の結論を導き出しています。
ただ、株式と債券への分散投資がすすめられている部分がシーゲル教授の結論とは違います。
シーゲル教授のデータや結論と「なぜ株式が最強なのか」を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
▼長期投資で株が最強な理由とは? シーゲルの「株式投資」
金融庁の報告書と当ブログで考え方がもっとも違う部分はこの部分です。
投資利回りに関しては、株式中心の当ブログの方が高く見ています。
さらに、投資スタンスに関しても、きわめて現実的なアドバイスを現役世代に対して行っています。
生活資金やいざというときに備えた資金については元本の保証されている預貯金等により確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
まさにその通りです!
余裕がある方は、ぜひ原本を読む事をお勧めします。
興味がある部分の拾い読みだけでも、今の時代を乗り切るために役立つ情報が満載です。
それでは、実際の資産運用について、当ブログのスタンスで解説していきましょう。
貯金ゼロから資産運用で2000万円を作るためのマジックナンバー
どういう条件であれば2000万円を実際に作ることができるでしょうか?
当ブログでは、それを考えるベースとなるマジックナンバーを3つ提案します。
一つ目は20年。
シーゲル教授が20年以上の長期投資で株式投資のリスクがゼロになると分析し、金融庁の報告書でも20年以上の長期投資がプラスリターンに収束する条件とされています。
二つ目は3万円。
一般的なサラリーマンが頑張れば毎月出せる額は、だいたい3万円程度ではないでしょうか?
それぞれ、個人的な事情はあるにしても一つの基準としては妥当です。
三つ目は7%。
数十年単位の長期投資で、きちんと研究すれば10~20%の年平均利回りは期待できます。
【期待できます】と表現したのには理由があって、保証は出来ないということです。
長期投資は稼ぐ感覚ではなく、植物に水をやる感覚に近いものがあります。
経験から、ある程度の成長予測はできますが、実際にどこまで育つかは自然にまかせるしかありません。
十年に一度程度の暴落は確実に発生します。
市場は利用することはできますが、コントロールすることは無理なのです。
その謙虚な姿勢を失うと、長期投資の成果を受取る事はできなくなります。
では、何を基準にすれば良いでしょうか?
一つの基準として、米国株式市場全体に分散投資をしているのと同じ効果があるVTIと言う銘柄のETF(Exchange Traded Funds)つまり上場投資信託の、2001年から2019年までの18年間の年平均利回りである7.4%よりやや小さい7%を使うのが良いと考えます。
2001年からと言うのは、この年にVTIが開設されのでこれ以上遡れないと言うのが理由の一つですが、結果的に2008年のリーマンショックなどの不利な状況を含めた年平均利回りなので保守的な値になると言う理由も含まれています。
実際、直近10年でデータを取れば年平均利回りは14.2%に跳ね上がり、実際に運用で利益を上げている長期投資家から見るとこちらの方が実態に近いように見えます。
ですが、やはり保証されないことを長期投資家は理解しているので、この程度の年平均利回りを期待はしますが保証ができるとは考えないのです。
では、実際に以上のマジックナンバーを使ってリターンを計算してみましょう。
計算には、野村證券のマネーシミュレーター「みらい電卓」を使います。
積立結果は1,522.6万円です。
あまりピンとこないかもしれませんね。
しかし、この結果をグラフ化するスゴさが一目でわかります。
この場合、元本だけだと720万円なのですが、年率7%だと20年で倍以上になるのです。
ですが、まだ2000万円には足りません。
2000万円に増やすためにはどうすれば良いでしょう?
方法は二つ。
積立額を増やすか、期間を増やすかのどちらかですね。
積立額を約3割増やして20年間、毎月4万円を積立てれば2,030.1万円。
毎月の積立額は3万円のままで24年間積立てれば2,160.7万円。
若い人なら期間を延ばす方が効果的ですね。
長期投資の場合は複利効果が働くため、ふつうは毎月の積立額を増やすより期間を延ばした方が効果が高くなるのです。
初心者が2000万円を作るための投資先はどこがおすすめ?
長期投資でもっとも避けるべき事は、パフォーマンスが落ちた時に別のパフォーマンスが高い投資信託に預け替えることです。
この行動は多くの場合、お買い得のタイミングで投資信託を売って、割高のタイミングで別の投資信託を買う結果になるからです。
最終的に利益が出る投資信託でも、一直線に増えて行くことは【絶対に】ありません。
どんなに優れた投資信託でも、運が良くても、万が一にも、一直線に増えて行くことは【絶対に】無いのです!
なので、パフォーマンスが高い投資信託と言っても、【その時に限る】場合がほとんどです。
なので、選んだ投資信託を信じて、何があっても積立を継続することが重要なのです。
しかし、この戦略を取る場合、「その投資信託が長期的に成長することがほぼ確実」であることが条件です。
そうでなければ、信じた結果大損することになるわけですから。
だから、長期・積立・分散投資と言っているのです。
ここで重要なのは最後の【分散】です。
充分に【分散】されていれば長期的にすべてがダメになる確率は低くなります。
つまり、それだけ安全になるわけです。
例えば、ITや医薬品、エネルギー銘柄などのテーマに基づいて投資する場合、ある時期のパフォーマンスが良いとしても、一つのテーマに偏っているため分散されていません。
このため、長期的なリターンを予測することは困難です。
アジア成長株をテーマにしたものも、このテーマに絞られているので分散が不十分な上にシーゲル教授が「株式投資の未来」で主張している成長の罠により、長期的には充分なリターンが得られないでしょう。
「株式投資の未来」や成長の罠については、以下の記事をご覧ください。
▼投資すべき株の条件とは? シーゲルの「株式投資の未来」
では、どこがおすすめなのか?
今回の目的から考えると、年平均利回りが低いとお話にならないので期待リターンが低く、守る要素が強いものは対象とはなりません。
7%と言うリターンはかなり良い方だということを理解して下さい。
また、価格変動がさきほどのVTIより激しいものも初心者向けではないため除外します。
さらに、おそらく20年以上の運用が予想されていても、現時点で10年未満の信託期間が公表されているものも残念ながら除外せざるを得ません。
すると、ウォーレン・バフェットが自身の死後の資産運用として管財人にすすめているVOOか、シーゲル教授のおすすめ銘柄であるVTIが候補として残ることになります。
VOOは米国市場の優良銘柄(S&P500)への投資で、VTIは米国市場全体への投資と考えて差し支えありません。
ここ10年の価格の変動率はVOOの方が安定していて、パフォーマンスも高いですね。
唯一の欠点は、2010年に開設されたETFなので、リーマンショック時のデータが無いことですが、先行2社が販売しているS&P500連動ETFでリーマンショック時のデータを見るとどちらも6.8%でVTIよりも多少落ちますが変動率は相変わらずVTIより安定してます。
これらのパフォーマンスを見る限り、当サイトでのおすすめはVOOということになります。
VOOについての詳細は以下の記事をご覧ください。
▼バフェットおすすめの投資信託(S&P500連動ETF)を徹底検証【VOO】
また、当サイトのオススメベスト3をまとめているので、興味がある方は以下の記事もご覧ください。
▼初心者が10年持つべき投資信託おすすめ銘柄ベスト3はこれだ!
https://kantan-beikokukabu.com/toushin-best3-56
避けるべき投資先と米国株式をおすすめする理由
株式の長期投資と言うと日本の株式に投資しようとする方が多いのですが、それだけは絶対にやめてください。
日本はオンリーワンと言って良いほど経済成長をしていない国であり、そのような国の株式市場に長期投資をするのはNGです。
一方で、急激に成長している新興市場も長期投資の対象としてはNGです。
数十年先を考えた場合、安定したリターンは望めません。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
▼なぜ、米国株が長期投資におすすめなのか?
投資は自己責任。
リスク管理を徹底して楽しみましょう。