MMTの提唱者、ケルトン教授の記者会見のインタビューがわかるプチ解説

MMTの提唱者であるステファニー・ケルトン教授が来日し、2019年7月16日に記者会見を開きました。

当記事では、その内容の中で誤解されやすい部分、際立って重要な部分をピックアップして解説しようと思います。

解説にはすべて動画のどの時点の発言についてのコメントかを示しました。

また、実際の記者会見では、他にも素晴らしい解説が多いので、動画を是非ご覧ください。

また、MMTの全体的な解説として、以下の記事を書いておりますので、全体像をつかみたい方は、以下の記事からご覧になると良いかも知れません。

▼MMTの提唱者、ステファニー・ケルトン教授の講義を聴いてきました

MMTの提唱者であるステファニー・ケルトン教授が登壇された「MMT国際シンポジウム」に参加してきました。 京都大学の藤井聡教授...

クラウディングアウトを誤解している記者の発言

0:54

記者

「主流経済学者のクルーグマンやサマーズが、財政出動が金利上昇を引き起こして、クラウディングアウトだとか民間の需要を減退させると理解しているのですが…」

この理解は間違っています。

クラウディングアウト理論では、財政出動が金利上昇を引き起こすとは言ってません。

後ほど、ケルトン教授自身がクラウディングアウト理論を解説してくれるので少々お待ちください。


ケルトン教授の使う【資源】という言葉の意味

2:10

ケルトン教授

「MMTが強調しているのは本当の【資源】の制約こそ我々が着目しなければならない要素であると言う事、それは何かと言うとインフレであります」

ここで言う【資源】、言語ではresourceと言っています。

日本のビジネスで使うリソースと言う言葉は主に生産のための人や設備を指しますよね。
つまりリソース=供給能力と言う意味です。

供給能力を越える需要があればインフレになりますよね。

この意味を理解すれば、この部分の発言が理解できるはずです。


クラウディングアウト理論とMMTの違い

2:20(英語)

2:30(日本語)

ケルトン教授

「クラウディングアウト理論の問題は(中略)政府の赤字(=国債の発行)の下で民間の貯蓄が(国債の購入に)使われてしまう。

そうすると民間投資に仕向けられる額が減ってしまうから故に金利が上昇すると言う事です。

一方、MMTの考え方は、財政赤字によって民間の貯蓄が増えると…」

これは、MMTの「spending first」と言う概念を理解しないとわかりにくいかもしれません。

まず、国は民間の貯蓄を借りて支出をするわけではありません。

  1. まず国は民間企業に政府小切手でお金を払います。
  2. 民間企業は民間銀行で政府小切手を預金に変えます。この時点で民間の預金が増えました。
  3. 民間銀行は政府小切手を政府に渡し、政府の日銀当座預金口座からその銀行の日銀当座預金口座にその金額が振り込まれます

つまり、支出の段階では民間の預金がそれだけ増えます。

その次に、同額の国債を発行したらこうなります。

  1. 政府が国債を民間銀行に売り、民間銀行はその銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金に振り込みます。
  2. 民間銀行では日銀当座預金と言う資産が減り、国債と言う資産が増えたので、この取引による資産変動はありません。
  3. 民間人が民間銀行から国債を買っても、預金という資産が国債と言う資産に変わるだけで、この取引による資産変動はありません。

つまり、政府支出の段階で民間預金は増加し、国債発行の段階で資産量の変化はありません。

一方、政府支出によって民間銀行に付け替えられた日銀当座預金は国債発行により返ってくるので、財政的には無限に継続可能です。

ただし、無限にやると経済がインフレ化するで、経済への影響と言う制約により無限にはやりません。

これが、ケルトン教授の言う、財政赤字によって民間の貯蓄が増えるということです。


MMTが機能する国家の条件

16:55

「MMTはマクロ経済のフレームワークでありまして、以下の条件を満たす経済では上手く行きます。

  • 自国通貨を発行していると言う政府であると言うこと
  • 変動相場制であるということ、つまり固定相場ではないということ
  • そして、国債の発行に関しては自国通貨建てであるということ

(以下、略)」

自国通貨を発行していて、自国通貨建ての国債のみを発行するのは、読者の方にとっては自明であると思います。

したがって、ここで解説したいのは固定相場ではないということ。

固定相場制の場合、自国通貨としての自由度を失います。

例えば、ドルとの固定制場を維持するには、発行額に見合ったドルを持っていなければなりません。

これは、自由に通貨を発行できないことを意味するのでMMTを適用できないのです。


MMTは資産バブルをむしろ抑止する

24:42(英語)

24:50(日本語)

「MMTにとりましてハイマン・ミンスキーの研究は極めて重要でありまして(中略)、一つ、MMTにおける重要な主張は金融政策よりも財政政策に強く依存するべきと言うことであります。

金融政策は債務が上昇してレバレッジが高くなってかなり借り手による借金が増えている時に機能する。

一方、財政政策は債務に影響を及ぼすのではなく、所得上昇をきたすということであります」

ここは、かなり重要な部分です。

主流派経済学では財政政策をきらい金融政策にたよりますが、そのデメリットを浮き彫りにしています。

つまり、金利引下げにより借入コストを下げることで企業の設備投資や雇用を促進する場合、低コストの借入金が過剰な資産の購入に振り向けられるという副作用が出るということです。

そして、これが資産バブルを引き起こすのです。

一方、財政政策による景気刺激策は、ダイレクトに仕事を増やし、雇用を増やし、所得を増やす効果を持つため、借入による過剰な資産の購入に振り向けられるという副作用はありません。

従って、金融政策よりも財政政策に頼るMMTの方が資産バブルの発生は抑えられるということです。


中央銀行の独立性とは?

27:24

ケルトン教授

「中央銀行の独立性と言うのは、政府から【どのように】金融政策を実行するかとの命令を受けない。MMTはそこを変えようなんていうことは一切主張しておりません」

ここは通訳の日本語だとわかり難いのですが、英語では【How=どのように】の部分を強調しています。

これは、中央銀行の「手段の独立性」と言い、世界では通説となっていますし、日銀もそのような位置づけです。

つまり、政府の方針や指示に逆らうことはできませんが、その手段は独自に決定できると言うことです。

例えば、政府がある目的を達成するために無茶な金融政策を強要した場合、その目的を正しい手段で実行する裁量を持つということです。


混乱した記者の質問

28:40

記者

「MMTではインフレは需給の過熱から起こりその前兆があると先ほどもケルトン教授おっしゃられていました」

→言ってません。

「しかし、急激なインフレは貨幣がその価値を損なう時に起こるのではないかと懸念されています」

→これは、商品貨幣論を元にしている一部の主流派経済学派の考え方で、MMTは信用貨幣論を取るのでこの懸念は持っていませんが、質問としてはありだと思います。

「MMTは政府の徴税権が貨幣の価値の源だと言いますが」

→言ってません。

徴税権ではなく徴税に自国通貨を指定することで、結果的に自国通貨を使うことを強制しているだけです。

「政府自体が信用を失う様な事態、MMTでは貨幣は政府の支出で生まれると言いますが」

→言ってません。

MMTの信用貨幣論において、貨幣は政府の発行または信用創造により生まれます。

「どれだけ貨幣を積んでも政府が何も買えなくなるような事態っていうのは想定していますか?」

→えっと、それを回避するための枠組みがMMTなのですが…

と、質問自体がかなり混乱していたので、ケルトン教授もちょっと理解に困っていましたが、インフラ対策一辺倒ではなく、物価安定と経済成長の両立を目的とした経済政策の必要性を強調していました。